HNN <ハリネズミねっとわーく>

2008年04月06日

目標を目前に 火炎に包まれる銀河特攻機 4月6日

梓隊によるウルシーへの攻撃も空しく、米第58機動部隊は、沖縄攻略戦の準備に入り、三月十七日に至り、日本本土より沖縄救援に展開するであろう、日本の航空勢力を阻止する目的として、本州。四国。九州の各航空基地を攻撃するために、九州南端の東方百浬の地点に進出してきた。


直ちに鹿屋基地より、五航艦の721空。、彩雲艦上偵察機七機が発進、敵艦隊の索敵に向かった。二機は撃墜されたがその動向は明らかになり、翌十八日第五航空艦隊司令部は、「総力をもってこれを攻撃し、殲滅せよ」 との命令を下した。


俺はこれまで数度の空戦は経験していたが、本格的な艦隊攻撃の大作戦は初めてであり、不安と緊張でその夜は眠れず、空戦のイメージ戦闘が頭の中を駆け巡っていた。


十九日早朝午前四時。特攻菊水銀河隊が八機離陸、薄暮の突入攻撃に向かった。航空母艦ワプスに一機命中が,戦果確認機によって確認されているが、米軍の無線傍受によれば、ワプスには250Kの爆弾一発が艦内で爆発、被害は甚大であるとのことで、これは国分基地より発進した特攻彗星隊の一機とされた。なぜなら銀河の搭載爆弾は800Kであるから、米軍の無線傍受とは違う。銀河隊は全機撃墜されたと判断された。


そして四時間後の午前八時、一式陸攻十二機。天山雷撃機九機が、援護戦闘機二十二機に守られて出撃して行った。


ここ鹿屋基地もいよいよ第一線基地になった感があり、基地全体が異様に緊張していた。 昼近く戦闘機がばらばらと帰投して来た。


しかし陸攻機と雷撃機は一機も帰っては来なかった。戦闘機も六機が帰らず、伝えられた話では敵艦隊はその数、海を埋めつくすほどで、百機に近い敵機にさえぎられて、とても攻撃隊を援護するどころではなく、一機。一機と敵機に食われ、全機撃墜されたそうである。


今や旧式となりつつある鈍足の一式陸攻では、攻撃の成果は上がらぬことは、誰しも口に出さねど知るところであったし、一撃食らえばすぐに火を噴き、ライターと言われていることも衆知のことであった。防弾,消火装備は無かったのである・


無念の涙。 火を噴き撃墜される一式陸攻機


雷撃機にしても、もはや旧式となった鈍足の九七式に代わって、新鋭機種の天山が配備されているが、それとても生産機数が足りず、おまけに敵に恐れられていた、九七艦爆の時代が終わると同時に、精鋭のパイロットもその機と運命を共にしており、天山を手足の如く操縦出来るパイロットもほとんど居ない。これも周知の事という状況であった。


それに加え戦闘機がはなはだしく不足しており、一時的にも敵上空の制空権を確保して、味方の攻撃隊を援護突入させることなど、不可能な現実であり、攻撃隊にとっては、出撃は二度と帰れぬ、確実な死を意味することは、南方での緒戦。フィリピン海域での諸海戦を通じ、ジンクスとなっているのが現状であった。それは我われ戦闘機隊についても、同じことが言えた。なにせ圧倒的に機数に差があったのである。


十九日、再度攻撃命令が下り、我が戦闘307飛行隊に攻撃隊援護の命令が伝えられた。


一式陸攻19機。天山雷撃機11機をもって米艦隊を攻撃する作戦が立てられ、我が隊の戦闘機22機がこれを援護せよとの命令であった。


翌日午前八時。戦闘指揮所前は、集合した各部隊の搭乗員でごったがえしていた。


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死出の旅か。 毎日記者の撮影による実写


攻撃隊員の数だけでも、一機乗員八名として、百五十二名になるわけで、それに加えて天山の搭乗員が二十二名。戦闘機が二十二名。最悪の状況を考えてみると、この一戦で百九十六名が一度にこの基地から消えてしまうことになる。皆同じ様なことを考えているのであろうか。ふと気づいて見ると、陸攻隊、天山隊の搭乗員たちの顔は、一様に普通ではない。まるで生きている屍と言えるような、土色の顔色で、その唇は紫と言っても過言ではない。 士気は上がらず、喋る者も少なく。集合人数にしてはとても静かな指揮所前であった。


――――――――――――――――――


攻撃隊の中には顔見知りの者も居た。俺を見つけると三人が駆け寄って来た。 残念ながら今となってはその名を失念してしまったが、確か同じ階級であった。


「美月よ。俺も今日でお六字だよ。(お六字とは、南無阿弥陀仏の六字のことで、死を意味した) それでも今日まで生きていたということは、長生きだったんだろうな」


「別に思い残すようなことは一つもないが、敵艦に近づく事も出来ずに、のめのめと死にたくはない。援護たのむ。たのむ」


「美月。大きな声では言えないが、別に無理して死にたかあないぜ。帰って来たいさ。なあ。たのむ。援護をたのむ」


三人がそれぞれの言葉と思いを投げかけた。俺のような未熟の者に頼んだところで。何のたしになるかと思ったが、彼らの顔色と言葉には必死の願いがあった。俺は笑顔を作り


「今日は出撃機数に対して、援護機が二十二機と多いんだ。大丈夫だまかしておけ。ばっちり守ってやるさ。安心しろ」


そのときほど、自分の言葉に無責任を感じたことは無かった。俺とても、同じように死を覚悟していた。



  
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